胸の奥深くにしまわれた記憶の爆弾〜『言の葉の庭』を見て
☆ネタバレ注意☆
新海誠監督の作品は初めて観たけれど、とても映像が綺麗で、それだけにリアルさがある映画だと思う。
同作品には、ある理由で出社拒否となった女性ユキノが出てくる。
舞台は主に新宿。
私が20代の一時期、勤務していた場所だ。
そして、二次障害を大々的に拗らせた原因を作った場所でもある。
劇中、ユキノは出社しなければならないのに、電車に乗れない場面が出てくる。おそらく、そこは新宿駅のホームだ。
私も、出社のため電車に乗らなければならないのに、どうしても乗れなかった時のことを思い出し、少し辛い気持ちになった。
けれども、見終わった後は、あの頃は辛かったとしみじみ思い、完成度の高い映画だと満足して、床についた。
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翌朝、私は明らかに精神的に不安定になっていた。
昨晩の映画が引き金となり、フラッシュバックのようなものが起きたのである。
電車に乗れなかった時の新宿駅の喧騒が臭いや音も交えてまざまざと蘇る。そこから、職場で辛かったシーンも次々と思い出され、軽く手が震えた。
実はこんなことは滅多にない。
この一連の出社拒否となった記憶も相当期間思い出すことはなかった。
今思えば辛すぎた記憶ゆえ、心の奥にしまわれていただけなのかもしれない。
私は自分がこんな「記憶の爆弾」を抱えていたことに、とても驚いた。
「何が今は生き辛さがないだ?こんな大きい記憶の爆弾を抱えておきながら?」と自分を忌々しく思い、腹を立てた。
けれども、ある程度時間が経つと、私は予想外の出来事に心を乱されるという、特性ゆえのいつもの心の波立ちであることに気づいた。
突然、思い出したくないものを思い出し、必要以上に動揺し、内省的になったけれど、それはもう10年以上前の話であって、全く別の環境に私は生きている。
そして、今は、私が苦しければ環境を変え、生き伸びる力があることを知っている。
私の担当医師が「ASD傾向があるけれど、今生活に著しい支障がないので診断がつかない」と私に告げる時「家庭を持ち、子どもが出来ると過去に大変でも、診断がつかなくなる女性は多い」とも言った。
他人のことはよくわからないけど、確かに私は子どもを産むことで、産む前より生き辛さが減った。
今は辛いことがあっても、子どもの寝顔を見て、その手をにぎにぎすれば、辛いことも何とかなりそうな気がする。
また、何かをきっかけに「記憶の爆弾」が私を襲うこともあるかもしれない。
でも、過去の自分は消せないし、私は長期映像記憶の持ち主なのだから、向き合うしかない。
そして、私は今、過去とは違う環境にいるのだから、恐れることは何もない。
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時間を置いてからではあるけれど、この映画監督が著者である小説も読もうと思っている。