発達障害者の「こだわり」を仕事・生き方へと繋げること
2013年5月に発表されたアメリカ精神医学会による『DSM5 精神疾患の診断と統計マニュアル』による、自閉症スペクトラム障害の診断基準は、AからEの5つの項目があります。
そのうち、「B」は、いわゆる「こだわり」に関わる基準です。
【診断基準B】
行動、興味、または活動の限定された反復的な様式で、現在または病歴によって、以下の少なくとも2つにより明らかになる(以下の例は一例であり、網羅したものではない)
①常同的または反復的な身体の運動、物の使用、または会話(例:おもちゃを一列に並べたり物を叩いたりするなどの単調な常同運動、反響言語、独特な言い回し).
②同一性への固執、習慣へのかたくななこだわり、または言語的・非言語的な儀式的行動様式(例:小さな変化に対する極度の苦痛、移行することの困難さ、柔軟性に欠ける思考様式、儀式のようなあいさつの習慣、毎日同じ道順をたどったり、同じ食物を食べたりすることへの要求)
③強度または対象において異常なほど、きわめて限定され執着する興味(例:一般的ではないい対象への強い愛着または没頭、過度に限定・固執した興味)
④感覚刺激に対する過敏さまたは鈍感さ、または環境の感覚的側面に対する並外れた興味(例:痛みや体温に無関心のように見える、特定の音、感覚に逆の反応をする、対象を過度に嗅いだり触れたりする、光または動きを見ることに熱中する)
『DSM5 精神疾患診断と統計マニュアル』DSM5より
- 作者: 日本精神神経学会,高橋三郎,大野裕,染矢俊幸,神庭重信,尾崎紀夫,三村將,村井俊哉
- 出版社/メーカー: 医学書院
- 発売日: 2014/06/30
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赤字で書いた部分「柔軟性に欠ける思考様式」は、DSM4からDSM5に改訂されてから、新たに導入された基準だと娘の主治医(精神科医)が話していました。
主治医によると、いわゆる外部に表出するこだわりを持たず、診断基準Bに関し「柔軟性に欠ける思考様式」だけを持つ自閉症スペクトラム症(以下「ASD」といいます。)の当事者も多いそうです。
「柔軟性に欠ける思考様式」とは
例えば、「授業中に私語をしない」「この場所では携帯電話を使用しない」といった規律があるとします。
ASD当事者が、このような規律を守る意味を理解すれば、それを遵守することは難しくないことだと思います。
むしろ、頑なに守る人もいるかもしれませんが、このこと自体は問題とはなりません。
しかし、規律を守らない人に対し、厳しい視線を浴びせるASD当事者も中にはいるかもしれません。
思考が決められた枠以上に広がらず、ケースによって物事を柔軟に考えることができない場合、怒りの感情が高まり、他者非難という行為に及ぶこともあるようです。
①私の場合
私自身も「柔軟性に欠ける思考様式」となったことが、これまでに何度となくあったように思います。
例えば、学生時代、自習室で雑談にふけっている人達がおり、勉強に集中できず、よくイライラしていました。
しかし、よくよく考えてみると「雑談のせいで勉強に集中できない」というよりは「自習室で私語をする人たちが許せない」という気持ちで苛立っていたと思います。
集中できなければ、勉強を中断するなどして切り替えれば良いものを「雑談する人が悪いから雑談は一刻も早く止めろ!」と自習室にとどまり、ギリギリしていました。
「自習室で私語をしてはいけない」という規律に強くこだわっていたんですね。
②次女の場合
次女は、しま△ろうの通信講座を受講しており、この教材でコミュニケーションの方法を学ぶことがあります。
「か〜して!」
「い〜い〜よ!」
しま△ろうの通信教材のおかげで、次女はお友達とのおもちゃの貸し借りを学ぶことができました。
しかし、最近では
「かしてといったのに、△△ちゃんがおもちゃをかしてくれない!」
と怒ることもあります。
しま△ろうによる学習効果が裏目に。。。
そういった時は、次女に相手の子がおもちゃを貸すことができない理由を説明したり、時間をおいてからまたお願いするよう諭します。
小さい頃から、自分の思いを叶えたい時に、他者に対し真っ正面から切り込むだけでは上手くいかないこと、小さな自分の思い(おもちゃを貸して欲しい気持ち等)はあきらめるという経験を重ねることで、娘に多少なりとも「柔軟な思考様式」を身につけさせたいと考えています。
「こだわり」を仕事に繋げる
前述したように「柔軟性に欠けた思考様式」を持つことは生き辛さに繋がることもありますが、主治医はある種の「こだわり」があること自体は問題はなく、その「こだわり」を上手く仕事に活かし、職場に適応している人もいると語っていました。
ASD当事者は、コミュニケーション能力や対人関係でのやり取りに困難があるため、就職の際はまず、いわゆるコミュニケーションの課題をクリアすることから始めることが多い。
それが間違いではないけれど、「あいさつ」ができるかどうか等コミュニケーションの問題がなくなってからの就職となると、就職へのハードルが高くなりすぎる場合がある。
ASD当事者は、「こだわり」を持つ人が多く、「こだわり」から細かい作業に集中することが得意であったり、パターン化された行動を求められやすい仕事に適応しやすい。
そのため、まず当事者が適応しそうな職場に就職することを優先させ、仕事をするなかで徐々にその仕事に必要なコミュニケーションを身につけていくという方法が有効な時もある。
また、仕事を通じて横の繋がりの人間関係を初めて持った当事者も多い。
娘たちはまだ就学前で、就職について考えるのはまだ先の話ですが、コミュニケーション能力に難があるため、習い事や学童保育についてどこに通わせるか、通わせた方がいいのかどうか、と悩むことがあります。
でも、この話を聞いてからは、娘に自由度の高い時間を与えるよりは、娘が興味を持つ習い事をさせていきたいと考えています。
習い事というある意味パターン化された行動が求められる枠の中で、ある能力を伸長させたり、他者とのコミュニケーションを身につけたり、または緩やかに横の繋がりを構築することは、娘が適応しやすい方法かもしれません。
おわりに
突然ですが、「3月のライオン」。
強くお勧めしたい漫画の一つです(2014年には、第18回手塚治虫文化賞マンガ大賞を受賞)。
11巻の最後に、主人公零の幼少期の話(BUMP OF CHICKEN配信限定シングル「ファイター」スピンオフ漫画)があります。
*以下ネタバレあり。
零は幼少期に両親を亡くし、棋士をする男性に引き取られたことから、棋士の道を歩むことに。
零は常に孤独であったけれども、将棋を続けている限り、棋士という居場所があった。
そして、気づけば、同じ道を歩む仲間(棋士)が側にいて、もう孤独ではない自分がいた。
といった内容です。
これを読んで、零がコミュニケーション能力に長けた人物とは言えないこともあり、上記主治医の話(後半部分)とリンクせずにはいられませんでした。
コミュニケーションを不得意とする人は、孤独な人生になりがちだけれど、少なくとも何か一つやり続けることができる事があれば、自分の居場所ができ、いつしかその事に関わる仲間もできて、孤独ではなくなる。
娘たちも、何か一つやり続けられることが見つかればと願わずにはいられません。